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30代での転職を目指しているエンジニアにとって前向きな数字があります。経済産業省所管の独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)は毎年統計資料「IT人材白書 2016」によると、「人材の量の過不足」について「大幅に不足している」と回答したIT企業は24.2%、「やや不足している」が67.0%で、合わせて90%を超えるのです。

さらに、「人材の質の過不足」については、90%台半ばのIT企業が「大変不足している」または「やや不足している」と回答しています。

一方、人材育成部門や担当者を設けているIT企業は31.9%であり、人材を組織的に育成する仕組みがIT業界全体で十分機能していないことがわかります。

質・量とも人材が不足し、自前で育成する機能が不十分であれば、中途採用でその不足を補うのは自然な流れです。30代のITエンジニアが転職するのは20代ほど簡単ではありませんが、転職を成功させるためにはいくつかポイントがあります。ここでは30代のITエンジニアが転職する際のノウハウについてご紹介します。

30代ITエンジニアの転職、その現実は?

30代の転職は20代に比べて厳しい

まず、30代の転職状況について見てみます。

30代での転職は20代に比べて厳しいものになります。厚生労働省が発表した「雇用動向調査」の年齢階級別の入職率・離職率を見ると、男性の場合、20〜24歳と25歳〜29歳では離職率が24.9%、16.8%と高いのに対して、30〜34歳は入職率11.5%、離職率12.3%と急低下します。35〜39歳で同8.0%、9.3%となり、この数字は59歳までほぼ横ばいとなります。

つまり、30歳を超えると実際に転職はぐっと減っているのです。

求められるのは「即戦力」と「プレイングマネージャ」

同調査で情報通信業種全世代の離職率は11.3%です。IT人材白書によると、ITサービス事業者に従事するIT人材は85万人と言われていますので、毎年約9万人のITエンジニアが転職していることになります。そのうち、30代はおそらく2〜3万人程度でしょう。

彼らに求められているのは「即戦力」と「プレイングマネージャ」です。

レイングマネージャとは、現場で部下やプロジェクトメンバーをマネジメントしながら、自分自身は管理業務に徹することなく、プレイヤーとしてもタスクをこなす人材を指します。

さて、あなたがこの2〜3万人に入るためにはどうすればいいでしょうか?

30代ITエンジニアの転職は計画がポイント

自分のキャリア思考をキャリア・アンカーで知ろう

あなたは自分のキャリア思考を客観的に分析したことがあるでしょうか?

自分自身が仕事に何を求めていて、仕事を通じて何を得たいと考えているかを考えることは転職する際に非常に重要です。

「30代は即戦力が求められるから、そんなこと考えても意味がない」という声が聞こえてきそうですが、30代が即戦力を求められる最後の転職になる可能性があるからこそ、こういった分析が重要なのです。

40代になって転職する場合、ヘッドハンティングされるようなポジティブな転職か、年収や待遇の面で妥協を伴うネガティブな転職か二極化が進みます。そうすると、30代で選ぶ会社はその先も長く勤務する可能性の高い会社・仕事なのです。

キャリア思考を分析する際、「キャリア・アンカー」は有効なツールの1つですキャリア・アンカーはマサチューセッツ工科大学(MIT)スローン校の名誉教授であるエドガー・シャイン氏が提唱した概念で、自らのキャリアを選択する際に、大切にする価値観を8つに分類しています。

8つの価値観(キャリア・アンカー)とは以下のとおりです。

  • 管理能力
  • 技術的・機能的能力
  • 安全性
  • 創造性
  • 自律と独立
  • 奉仕・社会献身
  • 純粋な挑戦
  • ワーク・ライフバランス

その詳細は以下のサイト(エドガー・シャイン氏本人の了解のもと運営されています)でご確認ください。

エドガー・シャイン ポータルサイト(【シャインの業績はやわかり】キャリア・アンカー入門)

そして、自分がどのキャリア・アンカーであるかは質問事項に回答することで、その傾向が分析できます。質問事項はエドガー・シャイン氏の著書である「キャリア・アンカー」(白桃書房)に含まれています。過去に分析した経験のある方でも、キャリア・アンカーは出世や結婚、出産といった人生の節目で変わることがあるため、転職前に再度分析することをお薦めします。

転職の軸を決めよう

自分自身のキャリア・アンカーを把握したら、次は転職する上での「」を決めましょう。軸とは、転職で何を求めるのかです

例えば、年収や待遇、休暇、転職先の業種やそこでの仕事内容、期待される役割などです。これを決めないまま、あるいはあいまいなままなんとなく転職活動をして、成功するほど30代ITエンジニアの転職はあまくありません。すべての条件を満たす求人があるに越したことはありませんが、転職における軸に優先順位をつけて、それを実現できる転職先に絞るようにしましょう

在職中の転職活動が基本、エージェントを使おう

30代のITエンジニアは油がのった時期で、現職においても複数のプロジェクトを兼任するマネージャであったり、チームリーダーであるケースが多く、毎日忙しいことが多いのではないでしょうか。そのため、「転職活動をする暇もない」という方が多くと思いますが、現職を辞めてからの転職活動はあまりお薦めできません。

現職を辞めることで転職活動に当てる時間が確保できるメリットはありますが、次の仕事が見つからないリスクや職歴に空白期間ができることが面接において不利に働くリスクを考えると、体調を崩すほど現職が忙しいケースを除いて、辞めずに転職活動をするのがベターです。

とはいえ、多忙の中で求人募集を1つ1つ吟味している時間がない方には、転職エージェントの活用をお薦めします。あなた自身のキャリア・アンカーや転職における軸を伝えることで最適な求人を提案してくれるだけでなく、業界の人材流動のトレンドや転職におけるアドバイスも期待できます。

キャリアの棚卸し

20代ITエンジニアの場合、これまでのキャリアが短いため、棚卸しをするほど職務経験がないケースがあります。それでも企業側はポテンシャルを評価して採用してくれるケースが多いのですが、30代になるとそうはいきません。30代のITエンジニアの場合、求人条件に合わせた職務経歴の棚卸しが必要です。

これは単純にあなたが経験した業務を整理・羅列することではありません。

例えば「28歳まで5年間、製造業向けの生産管理システムの構築プロジェクトを経験」と書くだけではなく、求人条件に「20代後半で20名以上のシステムエンジニアチームのリーダー」や「海外の顧客を相手にしたシステム導入プロジェクトの採算管理」、「JavaやPython言語を使ったシステム開発」といった事項がある場合、求人条件とまったく同じ経験でなくても、似た要素のある経験を職務経歴書でアピールすることができます。

先ほどの例で言うと、「30代前半で10名のシステムエンジニアチームを率いた」「顧客ではないが、海外のITベンダーを使ったシステム開発の経験がある」「Python言語の社内教育を企画していた」といったような経験でも十分にアピールすることができます。

IT企業→IT企業への転職

現在のキャリアの延長が基本。年収ダウンなら転職しない

現職がITエンジニアで、IT企業への転職を希望する場合で、年収の維持やアップを狙うなら現在のキャリアをベースに考えるべきです。IT人材にはアプリケーションエンジニアや営業、ERPソフト等のパッケージソフト導入エンジニア、ネットワークエンジニアといった分野がありますが、そのキャリアを維持すべきということです。

これらのキャリアは強みであり、あなたがすぐに実力を発揮できる分野であるとも言えます。求人に合ったキャリアをアピールしましょう。

多重請負のより元請けへ行くか、システム開発の上流へ行くか、技術に特化するか

多くの読者がご存知のように、ITの世界は一部の元請け企業がその他多くの下請け企業に仕事を発注する多重請負の構造になっています。そのため、転職でより幅広い仕事ややりがいのある仕事を望む場合、なるべく元請けに近い企業への転職をお薦めします。

プロジェクトマネージャであれば、より規模の大きな案件を担当できます。アプリケーションエンジニアであれば、より顧客に近い仕事や、より潜在的なニーズを掘り起こす仕事に就くことができる確率が高まるためです。

また、下請け企業は案件の方針が決定した後のいわゆる量産の工程を担当することが多くありますが、元請け企業にはシステムの構想から考える工程の仕事が多くあります。

下流工程も重要な工程ではありますが、転職を希望する30代のエンジニアが上流工程を好む傾向があるのも事実です。その理由は、賃金が比較的低い下流工程を20代と同じように担当していたのでは、将来が不安になるためです。現在の仕事内容や仕事のスタイルに不安があるなら、コンサルティングや要件定義といった上流工程を目指すことをお薦めします。

また、案件の規模や工程の上流下流ではなく、技術に特化したエンジニアを目指すケースもあります。これも転職の立派な理由であり、現職にない技術的な経験を得るために転職を選択するのも有効な手段と言えます。

30代エンジニアには、マネジメント力とビジネス創出力が重要になる

どのような転職を目指す場合でも、30代のエンジニアには「マネジメント力」と「ビジネスを創出する力」が求められます。システム開発の現場は定型的な仕事が少なく、常に新しいことを決まった予算・期間で実現することが求められます。プロジェクトマネジメント協会(PMI)がプロジェクトを「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される有期的な業務」と定義していることからもそれがわかります。

20代の主な仕事が「担当者として計画どおりにタスクを消化する」であるのに対して、30代は「その仕事をチーム単位でリード、マネジメントする」ことなのです。

そして、30代になると、プロジェクトの中で与えられたタスクをマネジメントすることだけではなく、新しい仕事を生み出すことも求められます。例えば、アプリケーションエンジニアの場合、顧客と友好的な関係を築き、新規案件の際に声をかけてもらう必要があります。

技術一本のエンジニアであっても、新技術に関する導入事例をセミナーでプレゼンテーションすることで潜在的な顧客の掘り起こしの助けとなる気概がなければいけません。これができないエンジニアは転職先の企業にもいますが、そういったエンジニアをあえて中途で採用する必要がないのです。

IT企業→非IT企業への転職

未経験職種を目指すことのリスクを理解しよう

ここでは、現職がITエンジニアで、IT企業以外への転職を希望するケースについて説明します。
30代のITエンジニアから例えば、営業やMR、経理といったまったく異なる職種への転職には大きなリスクがあります。30代の転職に求められるのが「即戦力」であることを考えると、無事に転職できたとしても、新しい職場で非常に高い水準を求められることも予想されます。

また、経験のない職種への転職の場合、30代になると年収ダウンを伴うことも覚悟しなければいけません。リスクや年収ダウンといったマイナス要素を補うだけの魅力が新しい職場にあるのかをしっかりと評価する必要があります。

チャレンジ経験を語れるか

そして、30代のITエンジニアをまったく異なる職種で迎え入れる企業側もリスクを感じています。会社組織には必ずその会社ならではの文化があります。30代のあなたにとって、これが初めての転職である場合、企業側も「この人はうちの文化に慣れて活躍してくれるだろうか」と考えるのが自然です。

そのため、あなたには職務経歴書や面接で「新しい物事にチャレンジした経験」を語れる必要があります。成果が大きかったかどうかに関わらず、自発的に挑戦し、様々な文化を巻き込むことに苦労し、成功した経験が必要です。その際も、相手はIT企業ではないため、技術的な話に終始しないよう、わかりやすい言葉で語れるよう注意が必要です。

非IT企業へのエンジニア職への転職であればステップアップも可能

転職先の業種がITでなくても、社内システムエンジニア職への転職であれば、ステップアップする可能性がぐっと高まります。特に現職において、JavaやPythonといった特定の技術に詳しい方ではなく、リーダー職やマネジメント職だった場合は、新しい職場でその能力が求められるケースが多くあります。

なぜなら、欧米の企業と比較して、日本の企業はITサービスやシステムを外部から調達するケースが多いため、技術者を内部に保有するニーズが低いためです。逆に、外部からITサービスやシステムを調達するためには、社内の調整やITベンダーのマネジメントができる人材が求められます。

まとめ

30代のエンジニアが40代になると、転職は完全なマネジメント職か業界でも名のあるエンジニアでなければ前向きな転職は難しくなります。つまり、多くの人にとって前向きな転職は30代が最後となる可能性が高いのです。

今回ご紹介したキャリア・アンカーを使ってしっかりと自己分析を行い、転職の軸を決めなければ、30代のエンジニアであっても転職エージェントはあなたが望むような転職先を紹介できないでしょう。逆にこれらをしっかりと行うことで転職エージェントとの面談は有効な機会となるのではないでしょうか。