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数年前、ある研修講師からうかがったのですが、アンケートで約1千人の受講者に聞いたところ、会社を辞めたいと考えたことがある人が約80%いたということです。
見ず知らずの人間と、まる一日拘束される会社という組織。頭に来たりうんざりしたりすることもしばしば。会社を辞めたくなる、仕事を辞めたくなることがあるって、ほとんどの人に経験があることなのですね。
しかし、アツくなったばかりに会社に辞表を叩きつけてしまうのは無謀です。
怒りを感じる時ほど、冷静になって備えなければなりません。
自信たっぷりに「会社を見限る」ことができるために、です。
ここでは、会社を見限る準備として、究極の手段である退職・転職というカードを、自信を持って切れるようにするための、冷徹な思考と準備の仕方について考えてみましょう。
会社はいつでも辞められる
まず、元・転職エージェント勤務のキャリアアドバイザーとして、大事なことを書いておきます。
8年間、転職紹介の仕事をしてきましたが、転職者の前職の最短在籍期間で数日、という方がいらっしゃいました。それでも転職紹介に成功しました(もちろん、多少苦戦はしましたが。)。
最長では、30数年同じ会社に勤めてリストラされた方の転職に成功させたこともあります。
つまり言いたい事はこういうことです。
有利・不利、職を選べる・選べないはありますが、転職できるか・できないかに関していえば、いつ辞めても転職は絶対にできます。あなたは何かしらの手段で生計を立てることは可能です。
最後のカードは誰もが持てると、自信を持ちましょう。
ただ、どうせ辞めるなら、辞めてソンした、では割に合わないですよね?辞めて清々した。できればトクをしたいもの。
そのために最後のカードはしっかり磨きをかけておきたいもの。
具体的な方法は次章で説明しますが、「辞めても残ってもソンしないように準備する」「どっちがトクになるかしっかり比べる」ことを大事なコンセプトとしてすえたいと思います。
「辞めたい」をスタート地点に変えるために、最後のカードをしっかり磨こう
まずは万が一に備えて、最後のカードをいつでも切れるように準備しましょう。
と、同時に、仕事を辞めた場合にどれだけのものが得られるか、しっかり考える機会を作ります。
何はともあれ先立つものの算段だ
まずは資金面の準備です。一般的に、転職活動は3か月~半年かかる例が多いです。その期間、働かずに転職活動に集中できるだけの資金が理想的です。
半年以上かかった場合は、ほとんどの方は失業手当ももらえているはずですので、これを転職資金としてカウントすることも可能です。人によってもらえる割合や額が異なりますので、あらかじめ調べておきましょう。
また、中には現職を続けながら転職することが可能な方もいらっしゃるでしょう。
その場合は、上記のような資金を準備する必要はありませんが、それでも交通費など細々とした経費が数万円単位で発生します。
しっかりした資金計画はあるに越したことはありません。
カネが出来たら職歴書を作れ
資金面のめどがついたら、職務経歴書を書いてみましょう。
ここで重要な点は、自分の仕事について徹底的に「棚卸し」をすることです。
棚卸しとは、経理の世界で使われる用語で、決算日時点で残っている商品や在庫等をカウントすることを指しますが、細かく鉛筆1本までカウントするのと同じ感覚で、自分の仕事を細かく分解して考えてみてください。
その中には、別の業界や職種でも役に立つスキル、つぶしが効く仕事の経験が必ずあるはずです。
もし、一人で考えるのが苦手な人の場合は、有料のキャリアカウンセラーに相談したり、次に述べるように転職エージェントで相談したりする方法もありますが、自分で自分の実力に気付かなければ意味がありません。
自分の仕事について細かく考えようという姿勢を身に付けましょう。
転職エージェントにハナシを持ち込んでみよう
職務経歴書が出来たら、(まだ転職する、と決めてなくても)転職エージェントに転職するつもりで相談してみましょう。
ここであなたの職歴が、他社でどの程度評価されそうか、第三者の目でチェックしてもらうのです。
また、あらかじめ頼んでおけえば、いざという時にすぐ動ける、という利点もあります。
転職エージェントも見る観点が違うので、できることなら、数社に登録することをお勧めします。
次のパートで、残留する利点についてもいろいろ模索していくことを説明しますが、展開によっては、トラブルが予想外に大きくなる可能性も考えられます。
あなたの辞める原因によっては、会社とケンカになることも考えられますので、最悪の事態に備えておきましょう。
残留への模索 ~誰に何を相談すればいいのか~
辞めると決めてつけてしまう前に、現職で改善の余地があるか確認することは重要です。
前のパートの準備は、あくまで万が一の脱出準備であって、誰にでも辞めて転職することが得策であることを意味しません。
ここでの狙いは、「辞める原因を除去すること可能か見極めること」と「残留する場合と転職する場合、どっちがトクかを冷静に比較できる手がかりを集めること」です。
辞める原因は様々なケースがあるでしょうが、仕事面のことであろうと、人間関係のことであろうと、「誰に」悩みを打ち明け、どのような話をするかで話の持って行き方が違います。
以下では一般的な注意点を述べます。
同僚に話す場合
同僚に話すケースの多くは、親しい方なら、あなたへの共感を示すことも多く、精神的にラクになるでしょう。
あなたの気分がそれで晴れる、というのならば良いのですが、辞めたいほど思い詰めているケースでは、精神的なバックアップ以上の効果を期待しずらいでしょう。
しかも、同僚も問題を解決する権限を持っていないケースがほとんどで、下手をしたらただのグチで終わってしまいかねません。
注意点はまさにそこで、明確な目的意識を持って相談しましょう。頭を整理して、この会社で頑張っていくことが得策かどうかの手がかりを、同僚から情報を得ることが大事です。
また、人間関係が原因の場合は、信頼できる同僚を選んで悩みを打ち明けるなどの慎重さが必要です。
上司に話す場合
話す相手として、一番慎重を要する立場の人です。
この場合は、上司のタイプに合わせて話すなど、注意が必要です。特に仕事面が理由で辞めることを考えている場合、上司が、自分自身を否定された気分になる場合があります。相談したことでかえってこじれる可能性もあります。
ただ、上司自身が辞める原因である場合を除き、辞めたくなるほどの悩みを抱えているならば、上司に話すことはビジネスマナーとしてのスジでしょう。基本的には避けては通れません。
場所は会議室などしっかり取ってもらい、ふだんのミーティングと同じように、じっくり話ができる環境で自分が辞めたいと思っている原因と改善の要望を、整理して話すようにしましょう。
人事部に話す場合
この場合では、上司に問題があったり、仕事面や人間関係面で、人事部の介入が必要なほど深刻なケースでしょう。
人事部に話を持っていくケースの場合は、覚悟がいります。たいていの場合後戻りは効きませんし、ケースによっては、異動などを含めた、事情が社内中に知られてしまうような措置が講じられるケースも考えられます。
上司の頭越しに相談したら、上司の顔を潰しかねません。
また、人事部のとった措置によって、劇的に居心地がよくなる場合もあれば、悪くなる場合もあるでしょう。
こうしたリスクを頭に入れて、覚悟を決めて相談するようにしてください。
役員・社長に話す
このケースは、人事部に話すよりドラスティックな事態になると思われがちですが、たいていの企業では、改善の見込みがずっと低いと思われます。
企業の役員・社長は、いちいち一従業員の働きやすさまで気にかけていられません。人事部に声をかけてくれる程度の気遣いはあっても、何人もの中間管理職の顔をつぶして、自ら解決に動くようなケースは少ないでしょう。
ある意味、同僚に悩みを相談するより頼りにならないと考えるべきだと思います。
また、社長から上司に何かを言われた場合には、かえって目も当てられない事態に転がることも予想されます。
権限はあるが、相談するにはリスクが最も高い人たちです。
残留か、転職か、冷静に比較してみよう
ここまで情報を集めてみて、残留・転職どちらの選択を取るか、冷静に比較検討してみましょう。
まず、残留を考える際のキーポイントは次の3点です。
- 働きやすさは改善されるのか
- 仕事面で改善されるのか
- 今後のキャリアや収入への影響はどうか
次に、転職を考える際のキーポイントは次の3点です。
- 年齢的に転職のチャンスがあるか
- キャリアアップ、ダウンの見込みはどうか
- 年収はどの程度見込めるのか
こうしたポイントを、実際に紙に書いてみて、見比べてみましょう。
果たして、どちらがトクになったでしょうか?
むろん、不確定要素は多いので、判断にはリスクがつきまといます。どちらのリスクを取れば良いのか、難しい場合が多いと思います。
ここで重要な指針となるのは、今後の自分のキャリアプランをどう考えるか、です。
迷う場合は、有料ではありますがJCDAやGCDFなど、公的に認定されたキャリアカウンセラーのアドバイスを受けるという手もあります。
もちろん、転職エージェントのキャリアコンサルタントに相談するなら無料です。
どちらが今後の自分のキャリアイメージに近く、かつ、リスクを取る甲斐があるか、しっかり決断してください。
会社を辞めると言える幸せ
最後に冒頭のアンケートの話に戻ります。
実は、先ほどのアンケートはキャリアプランニングの講師の方が取られたのですが、同じアンケートで、「実際に転職活動しましたか?」と聞かれたそうです。
しかし、ほとんどの方は行動に移していない、という結果でした。
大半の方は、実際には辞めたいと言いたくても辞められないのです。
語弊がありますが、『辞める』と言えるのは、幸せなんだな、と思いました。
今回、一番お伝えしたいのは、辞めるか辞めないかをフラットに考える姿勢についてです。
充実したキャリアを築くために、時にこうした試練を乗り越えていかなくてはなりません。
その時に一貫性のある、筋が通った向き合い方ができるかどうかは、キャリアの大きな分かれ道になると思います。