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年収交渉。

数か月にわたる転職活動の最後の山場で、転職者が最も苦手とするものではないでしょうか。

私も、数多くの年収交渉に携わってきましたが、年収交渉には独特の難しさがあります。

加えて、転職エージェントが間に入る場合、交渉の内幕が「ブラックボックス」のように感じる方もいらっしゃるかもしれません。

転職エージェントを通じた年収交渉の実態(裏側)って、どのようになっているのでしょうか?今回は、その実態をお伝えすることによって、ご自身に合った、納得感のある年収交渉につなげられたら、と思っています。

どうぞご一読ください。

転職エージェントが年収交渉で実際にやっていること

以下、ご説明することは、私が実際に年収交渉でやっていたことです。

しかし、おそらくは、他の良心的・一般的な転職エージェント・キャリアアドバイザー(そもそも誠実に年収交渉をしない転職エージェント、キャリアアドバイザーは除きます)も同様の年収交渉をしていると思われますので、まずはその話をしたいと思います。

交渉過程は「ガラス張り」にする

まず、心がけとして大切にしていた点は、「年収交渉の交渉過程はオープンにする」ということです。

年収交渉の場において、転職者と内定先企業、どちらか一方との間で、秘密の約束を握る、ということはまずありません。

そのようなことをしたら、入社後にトラブルになり、転職エージェントの信用に傷がつく(今後は転職者を紹介してもらえない)ことになりかねません。

また、年収交渉は、往々にしてこじれるケースもあります。そんな時に、転職者に「本当に年収交渉をやっているの?」という不信感が生じるケースも考えられます。

年収交渉は、転職エージェントと転職者がお互いに協力し合って、進めていくものです。両者の信頼関係が大切なことは言うまでもありません。

本人の意向を尊重し、希望をストレートに伝えている

では、実際に年収交渉の場において、どのようなことをしているのでしょうか?

基本的な段取りは、①内定先企業の温度感を伝えたうえで、年収交渉の進め方を転職者と打ち合わせをする。②内定先企業にストレートに伝える。という方法でした。

ここで①の段階では、相手に話したくないこと(家族が難色を示している、など)については、伏せるなどの交渉カードの出す、出さないについては詳細にすり合わせをしていました。

②でストレートに伝えるということは、①で転職者が伝えてOKという範囲で伝えています。

①②の交渉を経て、③内定先企業の反応について、分かり次第すぐに内定者にお伝えをしていました。転職者(内定者)にとっては、一番気を揉むところなので、「待たせない」ということを心がけていました。

交渉カードについて

では、実際にどのような交渉カードが切れるのでしょうか。

基本的に、他の多くの転職エージェントでも、以下に述べる、大きく5種類のカードを切っていると思います。

私は、特に進め方としては、内定先企業の同職種の同じ職務等級の方の給与レンジを内定先から教えてもらい、だいたい交渉可能なレンジを把握したうえで、交渉カードを理詰めで主張する、という手法を取っていました。

具体的には、次の通りです。

①求人票との差額を指摘する

非常に多いケースですが、当初求人票で示された年収額と、内定した後に提示された金額に開きがあるケースです。この点は、即座に説明を求める交渉カードを切ります。転職エージェントとしても転職者に説明する必要があるからです。

これは多くの場合、内定先企業が内定者を騙そうとしているわけではなく、当初、理想としていた人材イメージから若干離れている場合や、転職後に会社にフィットするまで(たいていの場合、転職者が活躍できるようになるまでには時間がかかります)の時間を考慮し、高く出すことがかえってプレッシャーにならないように配慮しているケースもあります。

ただ、内定者としては、求人票に示された年収レンジを期待して応募しているわけですから、裏切られたとまでは言わなくても、違和感はあります。

しっかり、その点はお伝えして、内定者が納得していただける年収を再考してもらうよう、求めるのです。

この交渉では、多いケースで50万以上、提示年収を増やすことが出来たケースもあります。

②現職との年収差について指摘する

これは、どこの転職エージェントでも行っている交渉戦術で、内定者の現職と年収差がある場合、わざわざ不利になる転職を実現することは難しい、という点を内定先企業に伝えるケースです。

特に、同業他社に転職するケース、また、内定者が新規事業を担当する予定で、給与レンジが明確に決まっていないケースで有効なカードです。

しかし、一般に、内定先企業では、人事制度の骨格が固まっており、職種や職務等級によって、だいたいの給与レンジが決まっているケースが多いです。内定者だけ特別扱いするわけにはいかないのです。

この交渉カードでは、多くでも10万~20万前後でしか、年収が変動しないケースが多いです。

③給与テーブルとの差額について指摘したケース

前述したように、私の交渉手法では、内定先企業で、同種・同レベルの職務能力がある人の給与レンジについて教えてもらったうえで、提示年収との差額について、細かく詰めていくという交渉方法を取っていました。

多くの場合、内定先企業もきちんと考えていただいているケースが多く、あまり差額は生じていない(10万円以内)ですが、ときどき、低く出しているケースについては、最初から対等に同額で評価してもらえるよう、交渉するケースがありました。

④家族の了解について持ち出すケース

このカードは実は最後の手段です。「○○万円以上の金額でなければ、子育てや介護の費用を考えると、家族の了解が得られない。」「○○万円以上の金額でなければ、妻の理解が選らない」といった浪花節的交渉です。

ただ、繰り返しますが最後の手段です。年収交渉は人生相談の場ではありません。いくらプライベートの事情を持ち出そうと、ビジネス上の論理を動かせるケースは非常に少ないです。(成功した例はありますが・・・。)

また、内定先企業の人事担当者の中には、こうした交渉手法を嫌う方もいらっしゃいますので、「相手を選んで」カードを切らなくてはなりません。

余談ですが、時折、このカードを最初に切る転職エージェントがいると聞いたことがありますが、それは残念ながら「できない転職エージェント」です。

できる、といいますか、まともな転職エージェントならば、まずはビジネス上の問題はビジネスの論理で解決策を探るものです。

⑤「入社の可能性」について伝える

これは、最後の最後の手段です。要するに「○○万円以上の年収でなければ入社しない」と伝えるカードです。半分脅しであります。

ここまで来るともはや理屈ではありません。内定先企業においても、当初の求人よりもっと上のポストを用意してもらう、年収レンジに特例を出してもらうなどの対応を迫る必要があります。

内定自体がご破算になることを覚悟する交渉戦術ですので、内定先企業が内定者を「どうしても欲しい優秀な人材」と好評価していなければ、出来ない戦術です。また、内定が合意に達しないリスクについて内定者に説明しておくことも必要です。

転職者への説明について

年収交渉の結果については、前にも述べたように、結果をすぐにフィードバックしています。

特に気を付けて話をしたことは、「年収交渉の成功の可能性」と「年収交渉がもたらすリスク」です。

成功の可能性とは、前に述べた①~⑤のカードによって、成功する可能性があるか、成功した場合、どの程度の年収アップの可能性があるか、について、出来るだけ具体的な見通しについてお話しすることです。場合によっては、他社の転職活動の続行についてもご相談します。

特に気を付けていたのは、年収交渉がもたらすリスクです。年収が上がるということは、内定先企業はそれだけ、入社後に、早期に具体的な成果を求めてくることが多いです。

社風だけではなく、仕事の進め方も人間関係もがらりと変わる転職では、これは決して軽く見てはいけません。

異なる環境でも十分に活躍していけるのか、その覚悟を持つ必要があることをしっかりお伝えしています。

ケースによっては、年収交渉を止めるケースもあります。もちろん、内定者の了解を得て行うのですが、希望年収と提示金額があまりにかけ離れ、年収交渉によっても埋められる可能性が低い場合などです。

また、人間が絡む話ですので、感情的にこじれる可能性がある場合も、年収交渉をいったん止めて、理性的に交渉する余地があるかを探る場合もあります。

最後に

転職エージェントは、企業から紹介手数料を取るビジネスで、一見、企業の味方のように誤解される方もいらっしゃいます。

しかし、まともな転職エージェントが、一番大切なことは、転職者(内定者)であるあなたの「納得感」です。

転職エージェントとして、入社後のトラブル防止のリスク回避という点で大事なのですが、転職エージェントも「ビジネスの成功」を目指していることには変わりはありません。

その成功の鍵を握るのは、あなたが転職に「成功した」と感じられるかどうかなのです。