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ITシステム開発の現場では、顧客からプロジェクトマネージャの実績や資格を問われる場合があります。

しかし、実績はいわゆる「盛る」ことができてしまうことがあるため、資格はもっとも客観的な評価になります。

実績は十分なのに、資格を持っていないことでプロジェクトマネージャを担当できないとしたら、こんなにもったいない話はありません。

ここではプロジェクトマネージャがIT企業からどの程度求められているのか、そしてプロジェクトマネージャが取得すべき資格について、その種類とニーズ、合格のための対策について紹介します。

企業に求められるIT人材像はプロジェクトマネージャ

まず、企業はどういったIT人材を求めているのでしょうか。

ここでは、経済産業省所管の独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が毎年発行する統計資料「IT人材白書 2016」から求められるIT人材をあぶり出したいと思います。

プロジェクトマネージャは圧倒的に不足している

まず、ITエンジニアが従事する業務別に分布を見ます。

IT企業では割合が高い順に、アプリ系技術者が35.0%、運用系サービス技術者が14.0%、コンサルタントが13.1%、プロジェクトマネージャが11.7%となっています。

システムを利用するユーザ企業では、社内システム導入・開発・保守が31.9%、社内システム運用管理が15.9%、IT投資案件のマネジメント(プロジェクトマネージャ)が13.2%、社内業務プロセス・設計が13.1%になります。

IT企業でもユーザ企業でも、ITエンジニアのうち10%程度がプロジェクトマネージャであることがわかります。

では企業は自社のITエンジニアに満足しているのでしょうか。

IT人材白書2016によると、IT企業で「人材の量の過不足」について「大幅に不足している」と回答したのは24.2%、「やや不足している」が67.0%で、合わせて90%を超えるIT企業がIT人材の量的な不足に直面しています

さらに、問題が深いのは質の面です。90%から90%台半ばのIT企業が質の面で「大変不足している」「やや不足している」と回答しているのです。

つまり、プロジェクトマネージャは質・量とも大いに不足しているのです。

一方、人材育成部門(担当者)を設けているIT企業は31.9%に留まっており、人材を組織的に育成する仕組みが十分ではないことがわかります。

プロジェクトマネージャが求められる業界構造

この記事をお読みの方の多くはご存知かもしれませんが、日本のIT企業(特に企業向けシステム開発を行うシステムインテグレータ)は、多重下請け構造で成り立っています。

少し乱暴な説明ですが、一部の一次請け企業がユーザ企業から開発案件を受注し、二次・三次請け企業に仕事を発注することで、人件費の利ざやで儲ける構造とも言えます。

ここで言いたいことは、その良し悪しではありません。IT業界は「多くの人を動かしてなんぼ」ということができるのです。

つまり、人を動かせる人材=プロジェクトマネージャが求められているのです。

プロジェクトマネージャかPMPのどちらを取得すべきか

ここでは、現在プロジェクトマネジメント業務に従事する方、あるいは今後そういった役割を目指そうという方が取得すべき資格について紹介します。

プロジェクト管理者向けには2つの資格試験があります。

『PMP』と『情報処理技術者試験プロジェクトマネージャ』です。

PMPはProject Management Professionalの略で、プロジェクトマネジメントの国際的な団体であるProject Management Institute(PMI)が認定するプロジェクトマネジメントに関する資格です。

PMPはプロジェクトマネージャのグローバル・スタンダードであり、国際的な案件においては、顧客がプロジェクト管理者にPMPの保有を求めるケースもあります。

一方、情報処理技術者試験プロジェクトマネージャは前述の情報処理推進機構(IPA)が認定するプロジェクトマネジメント従事者向けの資格で、国家試験です。

2つの資格には大きな違いがあります。

PMP

PMPはCBTと言われるコンピュータを操作することで回答する形式です。

すべての問題が選択式で、合格率は公表されていませんが、一般的には50%〜60%程度と言われています。

後述しますが、情報処理技術者試験プロジェクトマネージャの合格率が10%〜15%程度であるため、PMPを受験する方が一見楽であるように思われがちですが、PMPにはいくつかの考慮すべき点があります。

まず、PMPは受験者に2つの条件を設けています。

1つ目の条件は、直近8年間で、大学卒業者の場合4,500時間以上、高校卒業者の場合7,500時間以上のプロジェクトマネジメント業務の経験です。

受験者は受験を申し込む際にこれらの業務経験を自己申告します。PMIは受験申込者のうち一定割合に対してその内容の監査を行います。こちらも公表されていませんが、10%程度の受験者がその対象になると言われています。

注意が必要なのは、一度監査でNGが出ると、再度監査対象になりやすいと言われている点です。

2つ目の条件は、PMIが認定するプロジェクトマネジメントに関する教育研修を35時間以上受講していることです。

プロジェクトマネジメントに関する研修は世の中に多数ありますので、PMI、正確にはPMI登録教育機関(REP)に認定されているかを研修主催会社に確認する必要があります。

そして、PMPの受験料は$555と非常に高額です。$189を支払ってPMIに入会すると受験料は$405になりますが、いずれにしても5万円を超える非常に高額な受験料です。

情報処理技術者試験プロジェクトマネージャ

一方、情報処理技術者試験プロジェクトマネージャは、午前1・2のマークシート試験、午後1の記述式試験、午後2の論述式試験の計4つの試験で構成されます。

前述のとおり、合格率は10%〜15%程度であり、PMPに比べて非常に低いものになっています。

しかしながら、受験資格は一切ありません。また、受験料は5,700円(税込)で、PMPの1/10と非常に安価です。

この2つの資格試験のうち、どちらを取得すべきかは受験者の状況に依ります。

例えば、外資系のIT企業に勤務しているケースや顧客に国際的な企業が多い場合は、迷わずPMPを受験すべきでしょう。

しかしそうでない限り、情報処理技術者試験プロジェクトマネージャをお薦めします。

なぜなら、2つの試験に求められる知識はPMBOK(Project Management Body of Knowledge)をベースとしており、ほぼ同じであることから、受験料や維持にかかる費用が安価な情報処理技術者試験プロジェクトマネージャの方が受験者にとってメリットがあるためです。

また、合格率が低いことによって、社内評価や転職市場においても評価が高いと言われているためです。

プロジェクトマネージャ試験の合格対策

ここでは、情報処理技術者試験プロジェクトマネージャ(以下、プロジェクトマネージャ試験)に合格するための対策について説明します。

試験概要

前述のとおり、プロジェクトマネージャ試験は4つの試験で構成されます。それぞれで対策は異なりますが、共通するのは「とにかく過去問を解くこと」です。

なぜなら、公表はされていませんが、情報処理技術者試験は過去問の流用率が50%程度と言われているためです。

もちろん、過去問がそのまま出題されるケースばかりではありませんが、何らかの形で出題された内容が関わっていると言われています。

なお、過去問と解答は試験主催者であるIPAのホームページからダウンロードすることができます。

午前試験対策

午前1はIT技術全般に関わる知識問題で、マークシート形式で回答します。内容は情報処理技術者試験応用情報技術者試験の午前問題と同じレベル・同じ範囲です。

午前2はプロジェクトマネジメントやシステム監査、法務関連分野に関わる知識問題で、こちらもマークシート形式で回答します。午前1・2とも合格ラインは60点/100点のため、苦手な分野でつまづくよりも全体の70%を正答するつもりで対策すれば十分合格できます。

午前試験はいずれも「いかに多くの過去問をやったか」が合格に影響します

午後1試験対策

午後1はプロジェクトマネジメント分野について4~6ページ程度で疑似プロジェクトの説明文があり、そのプロジェクトの問題点や改善策について問われ、20字〜80字程度で回答します。午後1も合格ラインは60点/100点です。

午後1はよく「コミュニケーションの問題」「日本語の問題」と言われることがあります。そのため、説明文はあえて整理されていないようにも見えます。

そのため、先に出題文をよく読み、それに該当する箇所を説明文から拾い上げる練習を繰り返すことが最も効果的な対策です。ここでも、もちろん過去問を使って練習しましょう。

説明文のうち、「なお」や「このプロジェクトでは、XXXであるものとする」といったように受験者に前提を伝える箇所は正答につながりやすいと言えます。

なぜなら、正答は必ず1つに絞られるように問題が設計されているため、複数の正答が出ないように前提を加えているからです。

午後2試験対策

午後2は、出題者からテーマを出され、それに沿って2,200字〜3,600字程度で回答する論述形式です。

テーマとは、品質やコスト、課題やリスクの管理、開発手法に関するもので、1ページ程度の事例の説明があります。

出題文には「あなたの経験と考えに基づいて論述せよ」とあり、必ずしも実際に経験していなくても回答できるようになっています。

ここでは、論文の評価基準について考えてみます。

午後2は採点者が論述内容を読んだ上で内容をA〜Dで評価し、A評価だけが合格となります。

情報処理推進機構が公表している試験の統計資料を見ると、午後2の採点対象者(つまり、午前1〜午後1を合格した受験者)は2,000名〜3,000名です。当然採点者が1人ということは考えられません。

1名あたり100本の回答を採点していると課程すると、20〜30名の採点者がいるはずです。

それぞれの採点者が勝手に採点したのでは採点結果にばらつきが生じるため、必ず採点基準があるはずです。

残念ながら採点基準は公表されていませんが、対策本に掲載されるような模範解答からいくつか合格基準があげられます

  • 指定された文字数をクリアしている
  • 設問で問われた内容に回答している(設問から逸脱した内容は評価されない)
  • プロジェクトマネージャの立場で回答されている(担当者目線では評価されない)
  • PMBOKに則った模範的な見解が述べられている
  • 具体的な数字や事象で回答できている(抽象的な内容は評価されない)

午後2はいかに多くの模範論文を読むかが重要です。

20本〜30本程度読むことで、上記のような合格基準がわかるようになります。あとはそれに沿って論述する練習を繰り返すことで、どのようなテーマでも回答できるようになります。

まとめ

いかがだったでしょうか。プロジェクトマネージャ試験合格者は毎年1,000名程度の難関試験です。

そのため、合格者への評価は大変高く、価値のある資格であると言えます。プロジェクトマネージャは年齢が上がるほどIT人材に占める割合が高くなるため、40代、50代になってからも効果のある資格です。

また、午後2の論述試験に合格するためには、一定のプロジェクトマネジメント経験が非常に効果的です

もしも皆さんが現在の職場ではそういった経験を積めない場合は、プロジェクトマネジメント職への転職も非常に有効な手段と言えます。