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4組に1組の夫婦が不妊治療を受けている現代、漢方の需要も高まっており「子宝漢方」を看板にしている漢方薬局も増えてきています。また、未病や予防医学、オーガニックに注目が集まっており、漢方薬も再評価されてきています。

西洋薬を中心に学んできた薬剤師の中にも、自然由来の生薬を治療に用いる漢方に興味を持ち本気で漢方薬局での仕事へ転職を考えている人もいるでしょう。

今回は、未経験から漢方薬剤師になるにはどうすれば良いのか、漢方薬局の仕事内容や仕事の難しさについてご紹介いたします。

漢方薬局とはどんなところ?

漢方薬局には3種類ある

調剤薬局、ドラックストア、漢方薬局と業態は異なっても都道府県知事の許可を受けて営業しています。

漢方薬局では薬局医薬品製造業の申請が認められれば、400種類近い製剤を製造することができます。

予め処方や分量が決められているため分量や配合を変えることはできず、秘伝の漢方や加減合法、特効薬のような違法な製品を製造・販売することはできません。

製造した製品は成分、分量、用法、用量、効能、効果、使用上の注意を表示するように決められています。

漢方薬局には3種類あります。

  • 煎じ薬のみ扱う薬局
  • 煎じ薬とエキス製剤を扱う薬局
  • 他の医薬品や健康食品を扱う薬局

煎じ薬とは本来の漢方薬で濃くも薄くも加減ができるオーダーメイドです。

煎じ薬を調合するには生薬の知識が欠かせません。多くの生薬を頭に浮かべながら相談に応じ、処方を決めて調剤を始めようと思ったとたんに、「この生薬も使えるな」と気がつく面白さがあります。

エキス製剤は手軽に服用できるため忙しい現代人向きですが、オーダーメイドはできません。

漢方薬剤師には2通りの働き方がある

漢方薬局での働き方は2通りあります。

  • 漢方診療科で医師が書いた処方箋に基づいて処方をする漢方薬局
  • 漢方薬剤師が患者さんにヒアリングしてオーダーメイドで調剤する漢方薬局

医師が書いた処方箋に基づいて処方をする薬局では、新薬の調剤と並行して行うことが多く、調剤する処方内容に漢方薬が多くなるだけですが、漢方薬に慣れていない患者さんに対して漢方薬の特性についてアドバイスすることで知識を生かすことができます。

ただし、漢方の知識が増えていくと「自分が処方すればもっと他の生薬を使うこともできるのに」と、もどかしさを感じることがあります。

漢方薬剤師として漢方薬局で働きたい人の多くは後者の漢方薬局を希望しています。

未病や西洋薬では改善されない症状に悩む患者さんが、漢方で治したいと漢方薬局を訪れ、症状や仕事内容、生活スタイルをヒアリングして生薬を組み合わせて調合、処方します。

漢方薬の効果は西洋薬に比べて緩やかですが、早い人で3日目から遅くとも2週間で効果を感じることができます。

しかし、体質により効果が出なかったり効果が強すぎてしまうことがあるため、生薬についての知識を身につけ、患者さんの体質を見極めるためには漢方の考え方の1つ「証(しょう)」をマスターしなければなりません。

「証(しょう)」とは患者さんの体温の高低、声の張り、体格、生活スタイル等から現在、患者さんの身体がどのような状態であるか、見極める方法です。

患者さんにより体質は様々です。現在の勤務先に来る患者さんやお客さんはどの体質か、考えながら仕事をすることも勉強になります。

漢方薬局と調剤薬局の違い

漢方薬局に来る患者さんは多くて1日20人です。新規は1人に時間がかかるため5人が限度です。

調剤薬局のように次から次へと処方箋をさばくようなことはありません。

漢方薬は国内で承認されている一般用漢方製剤294処方、そのうち医療用保険が適用されるものが148処方あります。このように、多くの漢方薬の中から患者さんの症状に最も適切なものを選んで調剤・処方します。

調剤薬局で使用される漢方薬はエキス製剤になっており、漢方薬よりも種類が少なく、処方もパターン化されているため、それほど専門的な知識は必要ありません。

一方、漢方薬局ではエキス製剤だけでなく煎じ薬も取り扱うため、専門的な知識が必要です。

未経験から漢方薬剤師になるには

漢方薬・生薬認定薬剤師の資格を取る

漢方薬剤師になるために必要な資格はありませんが、漢方薬局によっては日本薬剤師研修センターと日本生薬学会の連名での漢方薬・生薬認定薬剤師を持っていなければ、応募できない求人もあります。

認定資格は公益財団法人日本薬剤師研修センターと日本生薬学会が実施している漢方薬・生薬研修を受講して試験に合格すれば取得でき、認定証やIDカードを着装できるようになるため、医師や患者さんに漢方薬剤師であることを認識してもらうことができます。

漢方薬・生薬認定薬剤師は3年ごとに更新が必要な資格であるため、その都度研修に参加して定められた単位を取得します。

2015年現在全国で2,800名が認定資格を取得しています。

勉強会やセミナーに参加する

何百という漢方・生薬の知識を身につけるためには、製薬会社や漢方薬局、大学、協会の勉強会やセミナーに参加する方法があります。

製薬会社の勉強会・セミナー

漢方薬局

大学・協会

各HPでは勉強会やセミナーの告知以外にも、漢方について学べるページやe-ラーニングで学べる講座を紹介しているページがありますので、アクセスしてみましょう。

セミナーや勉強会の講師に挨拶をして、漢方薬剤師を目指していることを伝えると講師の元で漢方を学んだり、知り合いの漢方薬局を紹介してもらえることがあります。

漢方薬局で働く

漢方・生薬の知識を身につける1番の近道は、漢方薬局で働くことです。
実際のカウンセリング方法や患者さんの体質に合わせた漢方薬の選定方法は、座学ではわかりません。

新日本堂株式会社では入社後に「漢方相談員養成コース」にて未経験からでも1人前の漢方薬剤師を育成できる研修体制を設けています。

単発や短期の派遣やアルバイトで漢方薬局の現場を経験しながら勉強することもできます。

漢方薬剤師の転職事情

選考で重視されるのは経験

転職では資格よりも経験が重要視されます。

大きな薬局の一部で漢方を扱っているような薬局では、通常の薬剤師業務と漢方薬剤師業務を兼務することがあり、調剤薬局での経験があるとアピールポイントになります。

特に、エキス製剤を扱った経験があればその経験を下記の要領でまとめておきましょう。

  • 1か月にどのくらいの頻度で扱ったのか
  • 何科のどのような疾患や症状で、どのエキス製剤を扱ったのか

漢方薬剤師は求人数が少ない

漢方薬局の求人は少なく、未経験者を募集している求人ともなればさらに数が少なくなります。

しかし、薬剤師専門の転職サイトに登録して非公開求人も含めて求人を探すことで、かなり選択肢を増やすことができます。

また、給与水準を今より落としたくない人は転職サイトを利用すると、現状維持または給与が高くなる傾向もあります。

といっても、良い求人が出るかどうかは運の要素もあります。書籍での独学やセミナーへの参加、認定資格の取得など、転職活動と並行してできることをやっておきましょう。

漢方薬剤師の給与は平均的?

薬剤師の勤務経験はあるが、漢方薬の経験がない人で正社員の全国平均年収(賞与込み)は450万円~500万円です。

新卒や第二新卒で薬剤師の勤務経験がない人で正社員の全国平均年収(賞与込み)は300万円~360万円です。

特別低いわけではありませんが昇給の機会が少ない為、転職をしながら給与を上げていく人もいます。

しかし、せまい業界であるため転職を繰り返すのは望ましいことではありません。

先ほどご紹介した、未経験者に「漢方相談員養成コース」を設けている新日本堂株式会社の条件は、未経験で固定給22万円以上、他諸手当あり。モデルケースとして30歳店長(入社6年)年収600万円となっています。

新日本堂株式会社のような大手の漢方薬局チェーンで店長になれば600万円(賞与込み)まで望めます。

漢方薬・生薬認定薬剤師の資格を取得すれば資格手当が毎月10,000円~30,000円つく漢方薬局もあります。

アロマをメインにしたエステサロン、漢方だけでなく健康食品も扱う店で漢方薬剤師として勤務すると、給与以外にインセンティブがもらえる企業もあり、インセンティブや賞与を含めると700万円以上もらえる可能性もあります。

パートや派遣社員で未経験漢方薬剤師の全国平均時給は2,000円~4,000円です。これは地域や仕事する期間、企業規模により時給が異なります。

転職する際には給与や資格手当等もきちんと確認したうえで転職をし、給与が原因で転職を繰り返すことがないようにしましょう。

漢方薬剤師のキャリア形成とは?

仕事に必要なスキルを磨く

傾聴スキル

漢方薬剤師には医療行為が認められていないため、患者さんから話を聞くことが重要になります。

患者さんの体調を見極めるためには、問診票をもとに1時間~2時間、長い人では5時間、患者さんから話を聞きます。

患者さんは体調が悪い人が多いため「身体がだるくて仕事がはかどらない」「●●病院に行ったけど処方された薬が合わない」等の愚痴に等しい話をしたがります。

その中から必要な情報を聞き出し、共感できなければ患者さんから信頼される漢方薬剤師にはなれません。

傾聴については本も出ていますが、実践的なセミナーや講座が各地で開かれていますので調べて参加してみましょう。

ハーブやアロマテラピー、サプリメントアドバイザーの資格を取る

通信講座やカルチャースクールでハーブやサプリメントアドバイザー等の資格を取るのも役に立ちます。

漢方薬局を訪れる患者さんは、手軽に購入できるサプリメントを服用して効果が出ないからと、漢方を頼って来店する人もいます。

同様にハーブティーやアロマテラピーを試したけど効果がない、と最後の頼みの綱として漢方薬局を訪れる人もいるため、知識を身につけて「なぜ効果が出なかったか」を説明できるようにすると患者さんとの距離を縮める助けになります。

病気や治療について勉強をする

薬科大でも病気について学んでいると思いますが、漢方薬局では自分が医師のような立場になります。

現代悩んでいる人が多い不妊治療や冷え性、肩こり、腰痛がどのような原因で起こるのか、どのような人に起こりやすいのか、薬剤師としての視点ではなく医師と同じ視点から勉強してみましょう。

不妊治療については医療現場ではどのような治療が行われており、患者さんが何に苦しんでいるのかも知っておくと、男性の方でも患者さんに寄り添って話を聞くことができます。

転職後のステップアップ

大手漢方薬局チェーンの場合

店舗で経験を積み店長になり、本社で新人育成のトレーナーを目指したり、全店舗を管理するマネージャーを目指すことができます。

調剤薬局やドラックストアへ転職

新薬分野の調剤経験があり、漢方薬局へ転職してまた新薬分野の調剤薬局やドラックストアに戻ることもキャリアアップになります。

医療現場でも漢方に注目している医師も多いため、漢方薬局での経験は調剤薬局でもプラスになります。

また、ドラックストアでも店頭に漢方薬が並ぶことが増えていることから歓迎されます。

独立開業

大手漢方薬局チェーンであればバックアップを受けて独立(フランチャイズ契約)するケースも多くありますが、個人で開業するには資金調達が大きな壁になります。

独立開業するには最低でも5年~10年の修行が必要になります。

漢方薬剤師になった時のメリット・デメリット

漢方薬剤師のメリット

エキスパートになれる

漢方について実践的に学べるため専門的な知識が身につき、エキスパートを目指したり、独立開業を目指すのに有利になることから、安定して長く働くことができます。

医療に携わっていると強く実感できる

患者さんとの距離が近く、毎回自分で処方を組み立てて調剤をするため、自分が「医療に携わっている」実感を得ることができます。特に、西洋薬の効果を得ることができなかった患者さんが漢方で症状を改善することができた時は大きなやりがいを感じることができます。

自分のペースで仕事ができる

調剤薬局のように処方箋40枚分の調剤をこなしたり、ドラックストアのように次々とお客さんや患者さんが来店することがないため、ある程度自分のペースで仕事ができます。

漢方薬剤師のデメリット

新卒や第二新卒は不利になることがある

新卒や第二新卒で漢方薬局に入ると新薬分野の調剤薬局に転職することは難しくなります。漢方薬局に入社する時には「この道を究めよう」という覚悟が必要です。

求人数が少ない

求人数が少ないため、勉強会やセミナーで知り合った人に紹介してもらって転職をしたり、
求人サイトやエージェントに登録をしておいて、求人が出た時にすぐに応募ができるように準備しておかなければなりません。

勉強会の機会が少ない

調剤薬局では製薬会社や調剤薬局内での勉強会が定期的に行われていましたが、漢方薬局ではそのような勉強会がないため、自分で情報収集をしなければなりません。

セミナーがあっても都心のみの開催であったり、自分のレベルに合わない内容である等、なかなか勉強をする機会がありません。

漢方薬剤師へ転職した後のイメージ

新規の患者さんが来店した時の流れ

問診票への記入をお願いする

問診票に現在の症状や既往歴等を記入してもらい、服用中のお薬がある人はお薬手帳も確認します。

問診票をもとに患者さんの状態を確認して漢方薬の候補を絞る

漢方相談では患者さんの様子を観察する望診(ぼうしん)、症状をヒアリングする聞診(ぶんしん)、確認のために話す問診(もんしん)で診察を行い、処方する生薬・漢方薬を絞り込みます。

観る(望診)
顔色、皮膚の色つや、眼の輝き、唇や歯茎の色、舌の色と苔の状態、爪の状態、雰囲気(生気、イライラ、気うつ、不満、焦燥感、怒りっぽい等)、歩き方や姿勢で体力(抗病力)を判断

聞く、嗅ぐ(聞診)
自覚症状(主訴とそれに伴う全身症状)、声の張り、臭い(口臭や体臭)、服用中の薬を確認

話す(問診)
発症のきっかけ、現在までの症状の経過、既往歴、病態を確認するために冷え、のぼせ、口渇、発汗、睡眠、食欲、排便状態、女性には生理の周期や妊娠の可能性について確認

問診では悩んでいる症状とは関係がないようなことまで尋ねます。患者さんが話しにくいことまで聞くため、コミュニケーションスキルが問われます。

尋ね方によっては怒りだしたり、気分を害する人もいますので、短い時間でいかに信頼関係を築けるかが重要になります。

1番難しいことは、人により体質や症状の原因が異なるため、同じ症状でも処方する漢方薬が異なることです。

例えば「動悸」で悩んでいるAさんとBさんがいた場合を例にしてみましょう。

Aさんは顔が赤くてイライラしやすく落ち着きがありません。体力は中程度でめまいと動悸に悩んでいます。

このように顔面紅潮とのぼせの状態があることを、漢方医学では熱証(ねつしょう)といいます。

この場合は「冷やす」効果のある黄連(おうれん)や山梔子(さんしし)が適応するため、黄連と山梔子に清熱(せいねつ)が配合された黄連解毒湯(おうれんげどくとう)を処方します。

Bさんは顔色が悪く冷え性です。体力は中程度以下で疲れやすい傾向にあり、めまいと動悸に悩んでいます。

Bさんの冷えている状態を寒証(かんしょう)といい、身体を温めるために当帰(とうき)や芍薬(しゃくやく)が配合された当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を処方します。

このように同じ「動悸」でも体質が異なるため、じっくりヒアリングをする必要があります。

患者さんのライフスタイルや予算に合わせて漢方薬の形状を決める

漢方薬には煎じ薬、粉薬、錠剤等の形状があります。効果が良いのは煎じ薬ですが煎じる時間や手間が大変なため、煮だしてパック包装して患者さんに渡します。

処方薬が決定したら生薬の説明と服薬指導、会計をする

漢方薬を服用した後には薬の持つ作用により病気回復の過程にみられる症状や、病気が回復する時に起こる予期しない激しい症状、副作用や不適応反応が起こることを必ず説明します。

会計をして終了です。

よく来店する患者さんのタイプ

病院に行く時間がないので薬が欲しい

忙しいから病院には行けないが市販薬は効き目がない。漢方薬なら副作用がないから安心だろう、と来店する患者さん。

このタイプの患者さんは病状が軽いことが多く、一般的な漢方薬(すでに調剤されて販売されているもの)でも間に合うことが多いため、簡単に服用できるエキス顆粒や錠剤、丸剤、散剤を処方します。

とりあえず相談してみて、自分で判断したうえで服用したい

このタイプの患者さんは事前にインターネットで調べたうえで来店される人と、漢方薬だけでなく薬草茶も飲んだことがない人の2パターンに分かれます。

どちらのタイプでも、患者さんが聞きたいこと、不安に思っていること、費用や効果について話しをします。

健康や薬に不安があるため良いものがあれば服用したい

このタイプは漢方に興味はあるが不慣れな人が多いため、時間が許す限り相談に応じます。新薬でも同じことが言えますが漢方薬に絶対に効果があるものはありません。

服用してみなければ効果があるかわからないため、漢方薬について理解をしてもらったうえで、患者さんの背中を押してあげるような言葉をかけるようにします。

本当に漢方には副作用がないのか心配

漢方薬の副作用について正確なデータはありませんが、1,000例中1件または10,000件に1件といわれています。

例えば、重症の便秘で漢方薬と下剤を服用すると、激しい下痢に襲われることがあります。

これは、便中に身体にとって有害な物質が排出されているために起こる好転反応です。この後、腹満感やのぼせ、吹き出物が改善され良好な経過が望めますが、これを副作用と勘違いする人もいるため、きちんと説明をして理解してもらわなければなりません。

おわりに

ここまでお読みいただいた方は気がついていると思いますが、漢方薬剤師の適性は「勉強が好き」であることです。

1番新しい漢方薬が生まれたのが昭和20年代。現在処方されている漢方薬の多くが2,000年前から処方されているものです。

長い年月の間、変わらず服用されている漢方薬ですが、処方をするためには目の前にいる患者さんの症状の原因は何か、どの処方が良いかを考えるには基本的な知識が備わっていなければなりません。

「あそこの漢方薬局は当てにならない」とネットに書き込まれると、経営に大きなダメージを与えることになります。

評判が良く信頼される漢方薬剤師を目指してがんばって勉強をしてください。